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「あきらと不思議な邪教の本」
いつもの生活がアキラを待っていた。
私立だか市立だか忘れたが、聖フランシスコ・ザビえもん・ケラチンコーワX学園(通称:ザビ家学園)に通う彼は、
いつものように授業など全く聞かず、ひたすら問題集を解いていた。
一方、現代文教師の奈蟹史(ナカニシ)も、これまたいつものように生徒の事など完全に無視しながら、
素敵すぎて、聞いている人が吐き気をともなうような(言い過ぎ)熱弁をふるっていた。
ナカニシ「あのさー 逆ギレって言葉があるでしょー、アレって広辞苑には載っていないんだよー。
それでさー、辞書に載っている言葉でこれに相当する物が実は昔から存在していたって知ってますかー? 知らないよねー。
これさー、『さかねじ』っていうんだよー。だからさー、みんなもこれからは会話の時にもコレ使おうよー。
『えー!?おまえ逆ねじかよー!』って具合にさー。」
とか、
ナカニシ「…というわけでさぁー、ウマがタンポポの事を呼ぶ時は『ヒヒーンポ』なんだよー。
じゃあ、カエルは何て言うかわかる人いますか?
…『タンケロ』でしょー? みんなちょっと想像力が貧弱だよー。」
とか、そんな感じの意味不明な一人語りを飽きもせずに、よく最後まで続けられたもんだ。
休み時間と授業の繰り返しがようやく終わり、アキラはさっそうと帰路についた。
途中、年末でもないのに道路工事が行われていた。
そのせいで、いつもの道が通れないため、アキラは迂回せざるをえなかった。
アキラは不愉快でたまらなかった。
そんなアキラが日本の政治家と土建屋の関係に思いを馳せながらしばらく歩いていると、突然何かに引き寄せられるような感覚を覚えた。
そこはアンティーク&古本の店「Fragility」の前だった。
アキラは以前もこの店でこんな事が有ったような無かったような気がした。
そして、何故かはわからないが、それは思い出してはいけない事のような気もした。
だが、アキラは引き寄せられるままに店に入った。
店主「やあ、いらっしゃい。」
眼鏡をかけ、浅黒い肌をした、やせこけた店主がカウンター越しに言った。
ここの店主は何年経っても同じ姿をしているように思えた。
店主「…そうそう、そこのコーナーにある本はどれも処分品だから、勝手に貰って行ってくれて構わないよ。」
と、店主は古ぼけた本がいくつも適当に並べられた箱を指さした。
アキラは言われるままそのコーナーにやって来た。
そして、吸い寄せられるように一つの本を手に取った。
表紙にわけのわからない模様が描かれた分厚い本だ。
やはり、見覚えがあるのだろう。そうだ!そうに違いない!
よくはわからないが、そう確信した。
アキラは中身を見る事もせず、その本を持ってすたこらと店を出た。
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家に着き、アキラは自分の部屋の机の上にさっきの本を置くと、本についていた鍵をはずし、本を開いた。
次の瞬間、白い煙のような物が本から飛び出し、アキラの頭にまとわりついた!
かと思うと、今度は机の上の本の横に停滞し、何かの形を成して行った。
やがて煙は、身長20cm弱の野球のユニフォームを着た虎のぬいぐるみの姿になった。
アキラ「な…何だ…?」
すると、なんとそのぬいぐるみはしゃべりだした。
ぬいぐるみ「『何だ?』はないやろ? ワイが誰かわかれへんのかいな?
おまえの好きな野球チーム『犯神タイガース』のマスコット、『トラッキィ』様やないか。」
確かに、このぬいぐるみは犯神のマスコット、トラッキィの姿をしている。
しかし、そんな事ぐらいアキラにもわかっている。
わからないのは、姿ではなく、こいつが何者であるかという事、それと、この本がどんな代物なのかという事だった。
そんなアキラの事などおかまいなしに、ぬいぐるみ…いや、もうトラッキィでいいや。
トラッキィは本に空いている四角いくぼみの中を覗き込んで何やらぶつぶつ言っていた。
トラッキィ「なんや!? ほとんど全部なくなっとるやないか!
…残っとるのは…たった一枚ぽっちか……ところで少年、名前なんていうんや?」
アキラ「…鬼之素…彰…」
トラッキィ「よっしゃ、アキラ。よう聞けや。
この本には確か魔法の錠がかけてあった。つまり、この本を開けられるんは魔力のあるモンだけや。
で、おまえがこれをひらいたっちゅうことはやなぁ、おまえにも魔力があるっちゅうこっちゃ。
…ワイの言うとる事わかるか?」
このトラッキィの言っている事は普通なら意味不明な妄言で片付けられるのだが、
ぬいぐるみがしゃべっている時点で明らかに普通ではないので、アキラは冷静な判断を欠いていた。
そればかりか、アキラはむしろ内心わくわくしていた。
アキラ「すごくよくわかるんだよねー。」
トラッキィ「…え…? …マジで…!? えらい物わかりのええやっちゃなぁ…
ま、状況に頭がついていけんと、パニるよりはずっとマシやな。」
いや、普通パニクるってばよ。そいつは例外デ〜ス。
トラッキィ「魔力のあるおまえがこの本に巡り会い、カードが飛び散ってしもた……どや? おまえさん好みのシチュエーションやろ?」
アキラ「…ってことは君は封印の獣なのか?」
トラッキィ「さぁな…まあ、色々細かい説明もせなあかんのやけど…取りあえずそれは後や。
まずは聞くだけ聞いとくわ。おまえ…なくなったカード回収できるか?」
アキラ「うん、まあ。」
トラッキィ「軽っ! こないな事はもうちょい慎重にやな……ま、ええわ。
一応、これでカードキャプターあきらの誕生や!」
アキラ「…それよりさぁ〜、全部集められなかったら、何が起きるわけ〜?
世界中の人が『一番好き』って気持ちを忘れてしまう、とか?」
トラッキィ「え…? なんやそれ?」
アキラ「知らんのか! このたわけめ! 修行が足りん! 修行が!」
トラッキィ「…んん、ワシ途中までしか知らんがいや。教えてくれぃや。」
アキラ「さあ、これを共に読もうではないか!」
と、アキラは本棚から一冊の本を取り出し、トラッキィに手渡した。
トラッキィ「(うわっ、とうとう出してきよった!)……ま、まあ、その事も後から考えたらええ。
時間は充分とったるさかいな。それより、今はまずこっちや。」
そう言うと、トラッキィは本から一枚だけ残った絵柄の無いカードを取り出した。
トラッキィ「……ちょっと、痛いかも知れへんけど…ま、そんぐらいガマンしーや。まがりなりにも漢やろ?」
と、トラッキィはそのカードを彰に投げつけた。
アキラは全身に電流が走っているかのような感じがした。
しばらくしてそれが止むと、トラッキィがアキラに声をかけ…るより先に、アキラが無言でトラッキィを蹴飛ばした。
アキラ「処刑だ! キミは処刑だ! 蹴り飛ばすぞ!」
トラッキィ「って、蹴ってから言うな! …それより、そのカード拾って見てみ。」
もう一度トラッキィを蹴飛ばしてから、アキラは落ちているカードを拾い上げて眺めてみた。
さっきまでは絵柄が無かったものが、今ではしっかりとHとTをあしらった犯神タイガースのシンボルマークが描かれている。
アキラ「これは…?」
トラッキィ「それはやなー、名付けて『トラキチ』のカードや! フリーカードにおまえの魔力を記録させた。
これがあれば、おまえはどんな時でも安定した魔力が発揮できる。
まあ、早い話、このカードはおまえの力の源っちゅうわけや。」
アキラ「…でさぁー、どうやってカードを封印するわけ? ……まあ、大体の見当はついてるんだけど。」
それを聞いたトラッキィは怪訝そうな顔をした。
トラッキィ「んん…ワイは道具も呪文もジャマになるだけや思うけど……おまえはやっぱり要るんか?」
アキラ「当然。」
トラッキィ「ハァ…しゃーないな…ほな、準備するさかい、少し待っときーや。」
そう言うと、何やらガチャガチャと作業を始めた。
具体的には、アキラの本棚から数冊のマンガの本を引っ張り出し、それらを熟読し始めた。
その間、アキラはボーっと今の状況の事を考えていた。
魔法だの魔力だの、バカげている。ありえない。アリエナイザーではない。
非現実的、非科学的にも程がある。
普通の人間なら、夢だと思うか、自分がアレになってしまったのかと思うだろう。
普通の人間なら
だが、アキラには何故か今の状況が当然かつ必然の事であるかのように思われた。
日常からかけ離れ過ぎているにも関わらず、容易に受け入れる事ができたのだった。
突然、トラッキィが何かに反応した。
トラッキィ「カードの気配や!」
アキラ「…?」
トラッキィ「おい、アキラ! おまえはまだわからんかも知れんけど、これは間違い無くカードの気配や!」
アキラ「じゃあ、早速封印しに行くんだよねー。」
トラッキィ「ああっ! 待てコラ! どこにあるかもわからんくせに勝手に動くな!」
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アキラとトラッキィは、家から徒歩5分程度の公園にやって来ていた。
アキラ「あれがカード?」
と、アキラは公園の中心ぐらいの地面から突き出している、3メートル程の高さの金属製のドリルのような物体を指さして言った。
トラッキィ「あれは『さかねじ』のカードや!」
アキラ「何だそれは。」
トラッキィ「見てみぃ。地面からネジが逆さまになって飛び出してるやろ? だから、あれの事は『さかねじ』っちゅうんですな。」
アキラ「ま…待て! それはもしかして駄洒落なのか!?」
トラッキィ「かもな。」
アキラ「で、効果は?」
トラッキィ「わからん。」
アキラ「はぁ?」
トラッキィ「とにかく! 相手がカードである以上、はよ封印せなアカン! ……やり方はわかっとんな? 言った通りにやるんやで!」
アキラ「別に、今更言われなくても、前から覚えてる。」
トラッキィ「……ああ…そうやったな…ま、気張ってこーや!」
そのトラッキィの言葉を受けて、アキラは何やらポケットから鍵を取り出した。
鍵の片端には、咆哮する虎の顔があしらってある。
そこはオリジナルと違っているが、その方がアキラらしいだろう。
そして、アキラは記憶にある通り、その鍵を持って呪文を唱え出した。
アキラ「闇の力を秘めし鍵よ…」
トラッキィ(確かに、ある意味正解!)
アキラ「真の姿を我の前に示せ…契約の元、アキラが命じる…! レリーズ!!」
アキラの足元に、本の表紙と同じような謎の模様が描かれた魔法陣が現れ、アキラの鍵は杖の形になった。
が、やっぱり虎の顔が片端についていた。
トラッキィ「お、上手くいったやないか!」
アキラ「…すばらしい…!」
トラッキィ(何か変な感動に浸ってるよこの人!)
アキラ「…で、どうやって封印するのー? このままでもいける?」
トラッキィ「…多分大丈夫や。自分では動けなさそうなカードやし…」
アキラ「ああ、そう。」
そう言うと、アキラは杖をかまえてドリルの方へ近付いて行き、杖を振りかぶった。
アキラ「汝のあるべき姿に戻れ!…………で、何カード?」
トラッキィ「何だってええ。適当に言うとき。」
アキラ「じゃあ、もう、何だっていいよ別に!」
と叫ぶと、アキラは杖をドリルに振り下ろした。
ドリルの姿がだんだんと一枚のカードの形に吸い込まれるように変化していき、やがて、一枚のカードがひらひらとアキラの方に飛んで来た。
絵柄を見ると、上を向いたネジが鎖で繋がれている。
アキラは『さかねじ』のカードを封印する事に成功したのだ。
トラッキィ「やったで! アキラ! よく、こんな度重なる状況の変化に負けんと頑張ったな! 感動した!」
アキラ「イマイチ歯ごたえが無い。」
トラッキィ「それは、相手が人畜無害すぎたからやな。…ま、ええやないか。ほな、帰ろか。」
こうして、「カードキャプターあきら」なるけったいなモンが誕生したっちゅうワケやー。